シンガポールで最も人気のある子どもの習い事

小学生で将来の進路が決まるシンガポールで白熱する「習い事」という名の投資

シンガポールに暮らしていると、子どもに対して「教育熱心」な国だと感じることが多々あります。例えば、中心地の大型のショッピングセンターには必ずといっていいほど、未就学児もしくは小学生の子ども向けの習い事の教室をたくさん見かけます。場所によっては、ワンフロア全て習い事の教室だけが入っているというところもあるほど。

また、習い事の検索サイト大手skoolpediaの調査によれば、習い事や塾への平均費用が、子ども1人当たり1ヶ月500SGD(約4万円)*で、最高額は6000SG(約48万円)とのこと。この数字からも、シンガポール では学校以外の習い事や塾などの教育に熱が入っていることがわかりますね。また、市場規模も10億円市場(2012年時点)であり、規模は年々拡大しています(同調査より)。*1SGD=79.1円で換算

さて、習い事にはどんな種類があるかを見てみると、語学系、芸術系、スポーツ系と様々。一見、どこの国でもみられるような習い事のようにも見えますが、背景を見てみるとある共通点が浮かび上がります。

今回は、シンガポール大手の育児系雑誌「the new age parents」で紹介されている最も人気がある習い事について調べてみました。シンガポールの子どもたちは、放課後どんな習い事に通っているのでしょうか。そして、共通しているポイントとは。

1、最も人気のある習い事:中国語

まず、最も多くのシンガポールの小学生が学んでいるのが中国語の塾ではないでしょうか。どのくらいの学生が通っているか具体的なデータは公開されていないのですが、中国語の家庭教師のマッチングサイト(Tutor  City)には、20,000人もの講師が登録しているそうで需要の高さがうかがえます。

また、未就学児では、およそ34%の親が中国語の塾に通わせているそう。早期から中国語を習得させようと思う親が増加しています。

中国語の習い事に最も人気がある背景には、PSLE(Primary School Leaving Examination )と言って、シンガポール 特有の小学校6年生の時に受ける全国統一試験が影響していると思います。

この試験は、点数に応じて入学できる中学校・高校(一貫校)を選ぶためのものです。シンガポールは高校時に受ける試験で大学が決まるので、良い大学にいくためには、よい中学・高校(一貫校)に入ることが必須条件です。なので、小学生の時の試験結果によって人生の進路が決まるとも言われています。

PSLEの科目の一つが中国語。PSLEは、科目ごとの総合得点で結果が出されるので(2020年時点)、一つでも取りこぼしができないと感じた両親が子どもを中国語の塾に通わせているケースが多いのだと思います。

私の子どもが通う保育園のカリキュラムにも、PSLEを意識してか、年中くらいから漢字の読み書きが始まりました。慣れない授業に4歳児が登園拒否になるほどしっかりとしたものでした。
なお、PSLEのために多くの小学生は中国語以外の科目ごとの「塾」に通うようになります。シンガポールのメディア(The Straits Times,Jul 2015)によれば、算数、英語といった試験科目の塾に通う小学生は8割を超え、未就学児では4割になります。

2、バレエ、バイオリン、ピアノ、絵画(芸術)

語学に続いて人気があるのが芸術系の習い事です。こちらも、単なる「情操教育」や「趣味」という域を超えて、両親が子どもの学習能力の向上に役立つと思っているところを感じます。

週末ともなると、国立系の芸術大学(NAFA)の周りには小学生がバレエの衣装を着て歩いていたり、バイオリンを担いでいたり、熱心に習い事に勤しむ姿が散見されます。この背景には、シンガポール政府が主導して進めているSTEM教育*など、イノベーションへの意識の高まりがあります。また、シンガポール の子育て世代向けのウェブ雑誌(Sassy Mama)にも「絵画教室は子どもの意思決定に効果あり!」など、思考力の高さと芸術の関連性への意識が広まっています。
*ITやAIが進化する時代には課題解決力が重要となるため、Science(科学)/ Technology(技術)/ Engineering(工学)/ Mathematics(数学)を統合的にまなぶ。アメリカを中心に取り組みが進んでいる。

芸術活動は、イノベーティブな能力を育成する力があると世界的に認識されているので、意識の高い親たちは子どもの「創造力」を磨くために、絵画をはじめとする芸術的な習い事をさせているのだと思います。
さらに、これまでは前掲のPSLEの成績に在学中の芸術や体育の成績が加点できるという措置がありました。このため、少しでも試験を有利にしたいと願う親が芸術系の習い事を子どもに積極的にさせている場合もあると思います。

3、スイミング、テニス

続いて人気がある習い事のひとつがスイミングやテニス教室です。周囲に聞いた話によれば、スイミングスクールやテニススクールは健康や体力維持と言ったシンプルな目的で通っているケースがほとんどでした。子育て世代向けのお出かけ情報サイト(Little Day Out)でも、スイミングは健康維持と親子の触れ合いの時間として価値があると書かれています。こうしたスポーツ系の習い事には、知的な影響というより、心の安らぎやリラックスという効果を期待していると思います。

4、プログラミング

シンガポールでは2020年度より小学校でのプログラミング授業が必須になります。これを受けて、徐々に子ども向けのプログラミングスクールが出現しはじめています。まだ、人気のある習い事にまでは至っていませんが、今後期待される分野ではあります。
シンガポール政府は、主導してSTEM教育を推進しているほか、技術専門学校内にはAI技術をはじめとしたデータ解析を学ぶセンターが新設されています。これからは、シンガポールでも新しいテクノロジーを開発していく人材育成に力を入れていくことがうかがえますので、子どもの習い事としても熱が高まってくるでしょう!

なお、これは全ての習い事に共通しているのですが、共働きの多いシンガポール家庭では子どもの放課後の過ごし方として「習い事」が選択されている可能性もあります。

シンガポールで人気のある習い事の共通点は、「受験対策」であることがほとんど。好きだからとか、楽しそうだからとか、という個人的な趣味ではなく、教育の一環として位置付けているように感じます。日本の習い事も「塾」だけ見れば、同じような状況かもしませんね。

親としては子どもには伸び伸び育って欲しいものの、期待をかければかけるほど、気がつけば子どもを習い事漬けにしてしまっていることも。過剰にならないよう、将来のトレンドを見据えながら冷静に対応したいですね!(^o^)

では、またシンガポールから情報をお届けいたします!

ハニーベアーズCEO 神谷 智子

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