シンガポールのコロナ対策「Trace Together」などのデジタル活用

 

シンガポールがコロナ対策に成功したアプリとは?

 

世界的に新型コロナの感染拡大が収まらない中で、シンガポールは徹底した対策を取ったおかげで、市中感染は2020年10月4日以降「一桁」を維持しています(2021年1月時点)。コロナ対策に成功している裏には、政治的リーダーシップや政策もありますが、実は政府が主導してデジタル技術の活用など新しい取り組みをどんどん進めたことも功を奏したのでは、と思っています。

そのデジタル技術というのが接触追跡アプリ「Trace Together」。政府のデジタル技術機関(GovTech)のGovernment Degital Servicesのチームが開発したもの。実は、シンガポールでは、2016年から政府とスタートアップが連携して政策のDXを推進してきており、今回の取り組みもその一例なのです。(GovTechはこちら)

 

このアプリは、マッチングアプリのように、Bluetoothを通じて近くのユーザーのIDを収集することができます。登録者の移動履歴や濃厚接触の可能性などを把握することもできます。なお、アプリはIDだけを取得するので、電話番号や名前などの個人情報は公開されないので、互いにプライバシーを保てるようになっています。ダウンロードは強制ではありません。また、アプリをダウンロードしない場合は、政府から無料配布される専用の発信機を利用することができます。この発信機は、アプリと同じように接触の情報を取得・発信できる専用の端末です。この発信機(トークン)が、各地域の公営住宅敷地内で、配布されるなどの工夫がされていることもあり、アプリや発信機への認知度もあがって、多くの人々に活用されています。日本にも接触アプリはありますが、利用率が全く異なり、2021年1月時点でシンガポールでは78%、日本では約20%(厚労省サイトから概算)。比べると大きな差がありますね。

シンガポール政府HPより:発信機をどこでもらえるかを検索するサイト)

シンガポールでは、2020年の4月から現在に至るまで「サーキットブレーカー」という独自のロックダウンを実施し、市民の生活を制約してきました。サーキットブレーカーは、3段階に分かれており、現時点ではフェーズ3。まだ制約はありますが、最初に比べれば、8人以下での会食が可能となるなど、だいぶ緩和されてきました。

でも、他国のようにコロナの再拡大とならないためにも、市民の生活の規制はまだまだ必要でしょう。プライバシーとのバランスもあり難しいところではありますが。

一番制約が厳しかったフェーズ1のころから、スーパーマーケットなどを含むあらゆるお店(規模の大小を問わず)やレストランでは、「Safe Entry」といって、検温はもちろんのこと入退時刻や個人のIDが政府により記録・管理されていました。Trace Togetherが普及する前は、店頭の専用スキャナーでIDを読み取るもしくは紙への必要事項の記載でしたが、今後は、この入退店の記録が「Trace Together」に置き換わって行く予定です。

具体的な使い方ですが、まずQRコードを「Trace Together」もしくは携帯のQRコード読みとりアプリなどで読み込みます。なお、携帯を持っていないなどの理由で、QRコードを読み取れない場合、身分証明書のIDカードをスキャン、または、紙に個人情報を記載する方法でも大丈夫。老人や子供は、トークン(発信機)を持っていれば問題ありません。

(店頭でのSafe Entryの使い方説明)

そして、QRコード読み取りアプリの場合は、専用画面に移動して必要事項(ID、名前、携帯電話番号など)を入力し、チェックイン(入店許可)となります。「Trace Together 」の場合は、この入力作業は必要なく自動的にチェックインとなります。最後に、お店を出たときもアプリ上で「Check out」ボタンを押して退店へ。なお、このチェックアウトボタンは、押さなくても問題はありませんが、ルール上、退出したことも伝えないといけないことになっています。

(シンガポール政府HPより:safe entryを利用した場合の画面の様子)

Trace Togetherによって、いつ、どこに、誰が、どのくらい滞在したのかという情報を把握することができます。政府は保健省のホームページで収集したデータは追跡として活用するとしています。また、「XXXショッピングモールに感染者が訪れた」などを即時に公表していたので、データを有効に活用していることがうかがえました。こうして、デジタルを活用して人々の行動を把握したことが、感染拡大を抑えることにつながったのだと思います。

これだけ統制されていると生活が息苦しいのでは?と思う方もいるかもしれませんが、当地ではそこまでではない、というのが正直なところ。むしろ、市中感染がなくて安心して人にも会えるといった印象です。制約はあれど自由にできることが多いです。

また、「Trace Together」の取り組みの成功事例は、シンガポール発の管理型データ活用マーケティングという新たな変化をもたらすのではと思っています。現状では、来店タイミングと属性のみが取得されていますが、購買実績などにも幅を広げていけばもっと面白いことになると思います。

現状、「Trace Together 」は、個人の移動履歴を収集しているので、分析を深めればユーザーの行動や特性などを把握したマーケティングもできるようになります。一方で、コロナのような感染症の抑制にもつながる。まさに経済と抑制の両立ではないでしょうか。

不確定なことが多い未来ではまた新たな感染が流行るとも分からない。コロナへの対応を見ていて予感したのは、デジタルによる行動の把握は、未来のマーケティングには欠かせなくなる、ということ。

これからも、シンガポールのデジタル活用から目が離せません!引き続き面白い情報を発信していきたいと思います!

ハニーベアーズCEO 神谷 智子